鈴木 ただし、商業出版は、学術ネットワークのように「共有」を前提に事を進めることはできません。著作権保護のためにDRMを適用したり、企業として利潤を追求するため、ストアと対の専用クライアント(電子書籍を読むためのビューワー)を開発し、顧客囲い込みのサービスになってしまいます。この時点で、特定のOSやデバイスの仕様に依存しないデバイスインディペンデンスの理念は困難になります。ストアのサービスが停止した場合、ビューワーのサポートもいずれ終了するため、(再ダウンロードが実施されても)電子書籍のデータが保存されている端末が動作するまでの寿命になってしまいます。

山田 「無料」で流通可能なコンテンツは、W3Cの理念に近づけますが、電子書籍がペイドコンテンツである限り、複数のストアがそれぞれ専用のクライアントを提供し、キャンペーンを展開して、顧客を取り合う構造はやむを得ないのかもしれません。つまり、今のところ紙の本のように(自分の子どもから孫へと)継承できるような財ではなく、本を手軽に読めるインターネットサービスと捉えたほうが理解しやすくなります。

鈴木 たとえ、標準仕様のEPUBを採用していても、他社のサービス(ストア)との差別化を図るために、利便性向上のための独自仕様追加も許容範囲として進められるでしょう。 ※例:AppleのiBooks Fixed-Layoutの仕様で作られたEPUBファイルは、DRMフリーであっても汎用ビューワーでは読めません。

山田 DRM(デジタル著作権管理)の仕組みは、商業出版にとって必要な技術ですが、強すぎると嫌がる読者が増えるだけではなく、利便性を損なってしまいます。弱いDRM(Social DRM)でどちらのニーズも満たせればよいのですが、この問題はブランド力と密接です。例えば、消費者が漠然と感じる信頼性の高さ(AmazonのKindleならサービスが停止することはないだろう等)によって、強いDRMであっても、購入のしやすさ(ワンクリック)、マルチデバイスの実現がクリアしていれば、とりあえず不満なく利用できるということです。